ロット加算式マーチンゲールを検証 — 3 種の資金管理で比較

ロット加算式マーチンゲールの構造的リスクと生存条件

1. はじめに

「マーチンゲール」と聞くと、多くの方は 「負けたらロットを倍にして、勝った時に過去の負けを全部取り戻す」 という古典的な手法を思い浮かべます。倍々で増やすため、連敗が続けば破綻するという致命的な弱点があり、最近の自動売買のプログラムでは別の形に改良されて販売されることが多くなっています。

その代表が 「ロット加算式」 です。倍々ではなく、負けるたびにロットを一定額ずつ「加算」していく方式。「倍々ほど危なくない」「リスクを抑えながら取り戻せる」と説明されることが多い手法です。

この記事では、この加算式マーチンゲールを EA で実装し、3 種類の資金管理 で 10 年間のバックテストを並走させて、何が起きるかを数字で確認します。


2. マーチンゲール本体と「加算式」の違い

古典マーチンゲール(倍々)

負けた次のロットを にする方式です。

連敗数 ロット 累積損失(SL 40 pips の場合)
0 0.1
1 0.2 -4,000
2 0.4 -12,000
3 0.8 -28,000
4 1.6 -60,000
5 3.2 -124,000
10 102.4 -数千万円規模

1 回でも勝てば過去の負けを全部取り戻せる数学的設計ですが、連敗が続くとロットが指数関数的に膨らみます。実運用では現実的に使えない手法です。

加算式マーチンゲール

倍々が危険すぎるため、改良型として 「負けるたびにロットを一定額(例: 0.5)加算する」 方式が出てきます。

連敗数 ロット 累積損失(SL 40 pips の場合)
0 0.5
1 1.0 -20,000
2 1.5 -60,000
3 2.0 -120,000
4 2.5 -200,000
5 3.0 -300,000
10 5.5 -1,100,000

倍々と比較するとずっと穏やかです。連敗 10 回でも累積 -110 万円程度で、口座が一発で吹き飛ぶような暴走は起きにくく見えます。

しかし、実際にバックテストを通すと、加算式にも固有の罠が見えてきます。

古典的倍々方式とロット加算式の数学的差異


3. 検証セットアップ

母体 EA

項目
戦略 USDJPY MA Cross H4(SMA 8/21 のクロス)
エントリー クロス確定後の次バー寄り
決済 SL 40 pips / TP 100 pips / TimeStop 24 バー
期間 2015-01-01 〜 2024-12-31(10 年)
取引数 715
勝率 35.91%
平均勝 ÷ 平均負 約 1.6 倍(典型的トレンドフォロー型)

この EA を固定ロット 0.1 で運用した場合の PF は 1.14 で、地味ながら長期的に edge がある戦略です。

検証する 3 種の資金管理

# 資金管理 設定
1 固定ロット 全トレード 0.1 lot 固定
2 加算式(リセット条件なし) 初期 0.5 lot、負けるたびに +0.5、勝ったら 0.5 にリセット
3 加算式(DD 20% リセット) #2 と同じ + ピークからの DD が 20% に達したらロットを 0.5 に強制リセット

初期残高はすべて 100 万円 で揃え、USDJPY の 1 lot = 1,000 JPY/pip として計算しています。マージンコール(口座残高 0 で停止)も実装しています。

検証の前提となる母体戦略とテスト環境


4. 結果 1: 固定ロット

固定ロット 0.1 の資金曲線

指標
10 年後残高 1,280,740 JPY(+28%)
最大 DD 約 7%

普通の右肩上がりです。年率換算で約 2.5%。派手さはありませんが、破綻リスクが見えない安定した曲線です。

これがベースライン、つまり「資金管理を何も工夫しない場合の素朴な結果」になります。同じ EA、同じシグナルでも、資金管理を変えるだけで結果がどう変わるかを、ここを基準に比較していきます。


5. 結果 2: 加算式(リセット条件なし)

加算式リセットなしの資金曲線(破産)

指標
開始 100 万円
終了 0 円(破産)
期間 開始から 5 週間

開始から わずか 5 週間で 100 万円が消えます

序盤の数日は順調に推移し、一時 108 万円まで増えます。しかしその後 5 週間で「負け → ロット加算 → さらに負け」が連続して発生し、加算式マーチンゲール本来の弱点である「長い連敗時の累積損失」が口座を破綻させます。

ここで思い出していただきたいのが、この EA は勝率 35.91% で、長期的には PF 1.14 のプラスを生む戦略だという点です。にもかかわらず、加算式の資金管理を載せると 5 週間で破産 します。

「長期的に勝てる戦略 × 加算式の資金管理 = 短期破産」 が成立してしまうのが、加算式の最初の罠です。

リセット条件を持たない加算式運用の必然的崩壊


6. 結果 3: 加算式(DD 20% リセット)

加算式 DD 20% リセットの資金曲線

指標
10 年後残高 2,819,900 JPY(+182%)
ロットリセット発動 36 回
リセット集中期間 入口 2 年(運用開始 0〜24 ヶ月)

リセット条件を加えると、結果が劇的に変わります。

最初の 2 年は地獄です。長い連敗が発生するたびに DD が 20% を超え、ロットが 0.5 に強制リセットされ、そのたびにそれまでの利益が消えます。チャートを見ると、リセット線(赤い縦点線)が 入口 2 年に集中 しているのが分かります。

ここで強調しておきたいのは、「ロットの強制リセット」は損切りしたのと同じ状態である ということです。リセットが発動した瞬間、それまで加算式で積み上げていた含み損ポジションが市場価格で清算され、損失が確定します。チャート上のリセット線 1 本ごとに、ピーク資金から 20% 分の損切りが 1 回入っている と読み替えるのが正確です。「ロット数値が初期値に戻る」だけのソフトな処理ではなく、口座残高が確定損失で減らされた結果として、次回からロットが小さくなる という順序になります。

しかし、入口 2 年を耐えると、MA Cross の長期 edge が効き始めます。3 年目以降は加算式の利益増幅効果も加わって、10 年で +182% まで伸びます。

ポイントは、「長期的には勝てる」と「入口 2 年は耐えられる」が別問題 だということです。入口 2 年で耐えられず諦めた場合、結果 2(破産)と同じ結末になります。

破綻を回避するサーキットブレーカーの力学


7. 結果分析 — 「リセット条件」が結末を分ける構造

3 種の結果を並べると、加算式の「リセット条件」が結末を完全に分けることが分かります。

結果 10 年後残高 評価
1. 固定ロット 1,280,740 JPY 地味だが安定
2. 加算式リセットなし 0 JPY 5 週間で破産
3. 加算式 DD 20% リセット 2,819,900 JPY 入口 2 年を耐えれば長期 +182%

重要なのは、「加算式」という同じロジックでも、リセット条件の有無で結末がここまで違う ということです。

販売されている自動売買のプログラムが「ロット加算式」を採用している場合、紹介文に「資金管理は加算式です」と書かれているだけでは、結末は予測できません。リセット条件のパラメータ — 何 % の DD で発動するか、発動時に何が起きるか — を確認しないと、「結果 2 型」なのか「結果 3 型」なのかが判別できないからです。

「リセット」は強制的な損切りである

ここで注意したいのは、「ロット強制リセット」は柔らかい処理ではなく、強制的な損切り だということです。

リセットが発動した瞬間、それまでに加算式で積み上げていた含み損ポジションが市場価格で清算されます。「ロットの数値が初期値に戻る」だけではなく、口座残高がピーク残高の 20% 分だけ確定損として減らされた結果として、次回からロットが小さくなる という順序です。

構造的真実① — 「リセット」の正体。リセットとは強制的な損切りの言い換えである。Step 1 負けによるロット加算と含み損の蓄積 → Step 2 DD 20% 到達による強制リセット発動 → Step 3 ピーク資金から 20% 分の損失が確定し、口座残高が減少

結果 3 のチャート上で見えるリセット線 1 本ごとに、「ピーク残高から 20% の損失が確定した」という意味です。36 回のリセットは、その確定損が 36 回繰り返されたということになります。

さらに、「結果 3」の入口 2 年の地獄を経て長期で勝てる設計だったとしても、それが運用者に向くかは別問題です。入口 2 年の累積 DD は数十%規模になります。途中で耐えられず諦めた場合、結果 2 と同じく破産で終わります。


8. マーチン本家との致命的な違い — 加算式は「連勝」を要求する

リセット条件が結末を分ける構造を見たうえで、加算式マーチンゲールにはもう一つ、本家との数学的な違いがあります。今回の検証結果(結果 2 と結果 3)の挙動を読み解く鍵にもなる、構造的な弱点です。

倍々マーチンと加算式の数学的差異

方式 取り戻し条件
倍々マーチン(本家) 1 回勝てば それまでの連敗が数学的に全部取り戻せる
ロット加算式 連勝が必要。単発の勝ちでは過去の連敗を取り戻せない

倍々の場合、1, 2, 4, 8 と倍々で増えるロットは「次の 1 勝で過去の累計負け分を超える利益が出る」設計です。だから 1 回勝てば全リセットになります。

加算式の場合、0.5, 1.0, 1.5, 2.0 のように線形で増えるロットは、1 回勝っただけでは「直前の負け 1 回分」を取り戻せるのが精一杯です。連勝が起きて初めて過去の連敗分を取り戻せる 構造になっています。

構造的真実② — 「連勝」の必須性。倍々は 1 勝で全回復、加算式は直前の 1 敗分しか回復できず、累積損失を消すには連勝が必要

レンジ相場でジリジリ削られる

1 勝 1 敗が交互に続くだけのレンジ相場で、加算式は致命的に弱くなります。

  • 1 回負ける → ロット加算
  • 1 回勝つ → 直前の負け分は取り戻すが、それ以前の累積損失は残る → ロット 1 段戻る
  • また 1 回負ける → ロット再加算
  • また 1 回勝つ → 直前の負け分は取り戻すが…(以下繰り返し)

ロットが下がっても、次の負けで再び加算されます。口座は単発勝ちでは回復せず、ジリジリと削られながらロットだけが平均的に上昇 していきます。そして大連敗が来た時には、ロットが高い状態で連勝が必要になりますが、相場が連勝を許してくれるとは限りません。

構造的真実③ — レンジ相場の罠。勝率 35% で 1 勝 1 敗が続くと、単発勝ちで口座は回復せず、ジリジリ削られながらロットだけが上昇していく

検証結果が示す「連勝必須」の影響

この観点で結果 2 と結果 3 を読み直すと、別の側面が見えてきます。

結果 2(リセットなし)が 5 週間で破産した本質は、母体の MA Cross が勝率 35.91% の戦略であるという点にあります。10 トレードに 3.5 回しか勝てないということは、連勝の発生確率は単純計算で約 13% に過ぎません。「1 勝で取り戻せない加算式」を、連勝が滅多に起きない母体に乗せた結果が、5 週間での破産でした。

結果 3(DD 20% リセット)の入口 2 年に 36 回のリセットが集中した理由も、同じ構造で説明できます。リセット条件で破綻は防がれましたが、レンジ気味の入口 2 年では「単発勝ち → 単発負け → ロット再加算 → DD 20% 到達」という流れが繰り返し起きました。リセット 36 回はそのまま「ピーク残高から 20% の損失が 36 回確定した」という意味で、合計の確定損は決して小さくありません。

リセット条件があっても、連勝必須は消えない

リセット条件は 破綻を防ぐ最終ブレーキ であって、加算式本来の弱点(連勝必須)を消すものではありません。

結果 3 で最終的に +182% に届いたのは、3 年目以降に「連勝が安定して起きるトレンド寄りの相場」が続いた区間があったから、というのが本質です。もし入口 2 年のようなレンジ寄りの相場が 10 年通して続いていれば、リセットが 36 回どころか 100 回単位で発動し、最終結果は +182% から大きく後退していたはずです。

販売されている加算式自動売買を評価する時には、「公開されているバックテスト期間に、レンジ相場の年がどれくらい含まれていたか」「その期間のリセット発動回数と単月損益はどう動いたか」 を確認する価値があります。これが開示されていない自動売買は、レンジ相場で何が起きるか予測できません。


9. 加算式を使う前のチェック項目

販売されている、または自作の加算式マーチンゲール型自動売買を使う前に、最低限確認しておきたい項目です。

チェック 1: リセット条件のパラメータが開示されているか

「ロット加算式」とだけ書かれていて、何 % の DD で発動するか / 発動時に何が起きるか が開示されていない場合、結末は予測できません。これが開示されていない自動売買は、買う前にもう一度立ち止まる価値があります。

チェック 2: 紹介文のグラフが「ピーク前の局所」を切り取っていないか

加算式は「途中まで綺麗な右肩上がり」を作れる仕組みです。販売者が直近 1〜2 年の絶好調フェーズだけを切り取って見せれば、強い EA に見えます。最低でも 10 年以上の長期チャートピーク後の挙動 を確認する必要があります。

チェック 3: 想定される最大 DD が口座サイズに対して許容範囲か

加算式は連敗時のロットが大きくなるため、瞬間的な最大 DD は固定ロットの数倍〜十数倍になります。「最大 DD が口座の 30% を超える可能性がある」のような数字が開示されているか、なければ自分で見積もる必要があります。

チェック 4: 初期ロットと加算ステップが口座サイズに対して攻撃的すぎないか

初期ロット 0.5 + 加算ステップ 0.5 は、口座 100 万円に対してかなり攻撃的な設定です。連敗 10 回で累積 SL 損が口座の 110% に達し、破綻します。自分の口座サイズに対して 何連敗まで耐えられる設計か を必ず確認します。

チェック 5: 入口の数年を耐えられる時間軸を持っているか

結果 3 のように長期では勝てる設計だったとしても、入口 2 年で深い DD を経験します。この期間に「もうダメだ」と判断して止めると、結果 2 と同じ結末になります。自分が何年単位で運用するつもりかを、買う前に決めておく ことが重要です。

ロット加算式 EA を評価するための 5 つの判定ゲート


10. まとめ

ロット加算式マーチンゲールは、倍々ほどの暴走はしないものの、(1) リセット条件の設計(2) 連勝を要求する構造 という 2 つの軸で結末が大きく分かれることが、Python による 3 種のバックテストと実運用データの解析で確認できました。

  • リセット条件次第で「5 週間で破産」から「10 年で +182%」まで結末が分岐する
  • リセット条件があっても、加算式本来の「1 勝で取り戻せない」構造は残る
  • レンジ相場で 1 勝 1 敗が続くと、加算式は単発勝ちでは回復できず、ジリジリ削られる

「マーチンゲール」というだけで頭ごなしに避けるのではなく、リセット条件の設計と、レンジ相場での挙動を確認すれば判別できる という整理が、この記事の結論です。


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