【手法検証 #14】「グリッドトレード」は、なぜ好成績にみえるのか?

「損切りなし」グリッド手法の罠 — 優秀な成績が隠している会計上の錯覚
  • 「勝率80%超・右肩上がりのグリッド手法、本当に使えるの?」
  • 「損切りしなければ勝率が上がるのはなぜ?」
  • 「PFが高い手法でも含み損が膨らむって、どういうこと?」

これらの疑問を解消します。

そもそもグリッド方式とは?

あらかじめ決めた値幅ごとに格子状(グリッド)で注文を置き、価格が逆行するたびに同じ方向へポジションを積み増していくナンピン型の手法です。損切りを置かず、平均建値まで価格が戻ったところでまとめて利確する設計が一般的です。仕組みの基本はこちらの記事で解説しています。

ナンピンとグリッドの違いとは?仕組みとリスクを初心者向けに解説
ナンピンとグリッドトレードの違い、それぞれの仕組みとリスクを初心者向けにやさしく解説します。「含み損は損ではない」という錯覚、コツコツドカン型の破綻パターン、そしてPFが高く見える理由まで丁寧に整理しました。

今回取り上げるのは、グリッド方式の手法です。巷で販売されているEAの代表格とも言える手法です。
この手法を簡単に言うと、5pipsごとにポジションを積み増していき、バスケット全体の平均建値から20pips上で一括決済する。損切りは設けない。そういうシンプルなルールです。

11年間のバックテスト結果は、一見すると優秀でした。ですが、内訳を掘り下げると、「損失」が先送りされているのが見えてきます。

一見すると優秀な成績

まず、検証したルールを整理します。通貨ペアはAUD/NZD、時間足は15分足、期間は2015〜2025年の11年間です。エントリーは、価格が5pips逆行するごとに同じ方向へ買い増し。決済は、保有ポジション全体の平均建値から20pips上に戻ったら全部まとめて利確します。損切りはありません。

この条件で走らせた成績がこちらです。

  • プロフィットファクター(PF):2.97
  • 勝率:81.6%
  • 1取引あたりの平均利益:+17.6pips
  • 取引回数(バスケット):4,181回
  • 決済済み損益合計:+103万円
  • シャープレシオ:4.985
  • 最大ドローダウン(決済ベース):4.8%

勝率80%超・PF3.0近く・シャープレシオ5.0近く。数字だけを並べると、かなり優秀な手法に見えます。資金曲線も右肩上がりです。

損切りなしグリッド(PF2.97)の資金曲線。11年間でなめらかに右肩上がり(800万円→903万円)

ここまでは「損切りをしないグリッドは好成績」という話です。グラフもなめらかに右肩上がりで、何の問題もなさそうに見えます。

ところが、まったく同じエントリー・まったく同じ利確ルールのまま、損切りだけを加えると、成績はガラッと変わります。下のグラフがその「損切りあり版」です。

同じエントリー・利確ルールに損切りだけを加えた版(PF1.009)の資金曲線。ほぼ横ばい(800万円→801万円)

損切りあり版のPFは1.009——ほぼトントンです。右肩上がりだった資産曲線が、ほとんど横ばいになりました。エントリーも利確も同じで、損切りを入れるか入れないかだけの違いです。それだけで、PFが1.009から2.97にまで跳ね上がっていたわけです。

なぜそんなことが起きるのか、次の章で確認します。

種明かし:損失を「含み損」に押し込んでいる

損失の出口が塞がれた構造。順行はTP(利確)で決済されるが、逆行は損切りされず含み損として計算外に置かれる

損切りしないグリッド手法の仕組みはシンプルです。

5pipsごとにポジションを積み増していく。逆行が続いても決済しない。最大30本まで積んで、バスケット全体の平均建値から20pips上に戻ったときだけ全決済します。この利益確定の出口をTP(テイクプロフィット=利確)と呼びます。逆に言えば、この手法には「負けを認める出口」がTP以外に存在しません。

この構造のとき、決済される取引はすべてTPで終わります。損切りがないので、損切りで終わる取引が1件もない。当然、PFの計算式(総利益 ÷ 総損失)の分母には、決済済みの損失がほとんど入りません。

では損失はどこに行くのか。含み損として、ポジションを保有し続けている間ずっと浮いたままになります。含み損は「決済していない損」なので、PFの計算には乗りません。勝率の計算にも乗りません。

PF2.97の正体

「決済が完了したトレードだけを集計した数字」です。逆行して含み損を抱えたまま保有中のポジションは、この数字の計算に入っていません。

シャープレシオ4.985も同じ理由です。月ごとの「実現した損益」の変動が小さいため、安定しているように見えます。でも実際は、含み損が月をまたいで膨らんだり縮んだりしているだけで、それが月次の損益変動に乗っていないだけです。

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含み損を含めると資金曲線が変わる

「決済済みの残高」と「含み損を含めた実質資産」を2本の線で描くと、両者のギャップが見えます。

決済済み残高(右肩上がり)と含み損を含めた実質資産の2本ライン比較。含み損ピーク時に実質資産が大きく沈む様子を可視化

決済済みの残高だけ見ると右肩上がりです。でも含み損を加えた実質資産は、かなりの時間帯でそれより下にあります。

具体的な数字で確認します。

  • 決済済みの利益合計:+103万円
  • バックテスト終了時点の未決済含み損:−26万円(30ポジション残存)
  • 実質の損益(利益−含み損):+76.6万円
  • 含み損ピーク:−40万円超(検証期間中の最大)

バックテストが終了した時点でも、30ポジションが含み損を抱えたまま決済されていません。「+103万円」という数字は、この−26万円が解消された前提の話ではなく、解消前の数字です。

また、最大ドローダウンは決済ベースで4.8%と表示されますが、含み損のピーク時は別途約5%が水面下に潜んでいます。両方を合わせた実質的な最大下落幅は、この数字より大きくなります。

7.3ヶ月、含み損を抱え続けた事例

今回の検証で、いちばん長く決済できなかったケースでは、最初の買いから7.3ヶ月間、ずっとポジションを抱え続けました。(この手法では、5pipsごとに積み増した一群のポジションをまとめて1セットとして扱い、そのセット全体が利確されるまで決済しません。)

7.3ヶ月間含み損を抱え続けたバスケットの推移。最大30ポジション積み上げ後に平均建値+20pipsまで戻るまでの期間を示す

5pips逆行するたびにポジションを追加し、最大30本まで積み上がります。30本×5pipsで、エントリー開始時点から150pips逆行した状態でもポジションを保有し続けるということです。そこから平均建値+20pipsまで戻るのを待ちます。

11年間のAUD/NZDは、その間に価格が戻ってきたから破綻しませんでした。ただ、「7.3ヶ月待ち続けた」という事実は、資金的にも精神的にも、相当な負荷です。

損切りを入れるとPFが1.0に落ちる

たった一つのルールの違い。損切りなしはPF2.97、同じエントリー・利確のまま損切りを加えるとPF1.009になる

同じエントリールール・同じ利確ルールで、損切り条件だけを加えた版で検証しました。バスケットの平均建値から200pips逆行したら全決済、または1週間保有が続いたら強制決済という設定です。

結果はPF 1.009。ほぼトントンです。

損切りなし版のPF2.97と、損切りあり版のPF1.009。この差は、手法の実力の差ではありません。損失を「決済した損」に計上するか、「含み損として持ち続ける」かの違いだけです。

損切りあり版では、逆行したときに損失を確定させます。その損失がPFの分母に入るので、数字が下がります。損切りなし版では、同じ逆行分を含み損として保有し続けるだけで、決済していないのでPFの計算に入りません。

「損切りをしない = 勝率が上がる」というのは、正確には「損切りをしない = 負けトレードが確定しない」です。損失が消えたわけではなく、確定を先延ばしにしているだけです。

なぜ勝率が高くて当然なのか

勝率80%の正体。勝率が高いのは、まだ利確に届いていない含み損トレードを負けに数えていないだけ

この手法には、利益が出たときの出口(利確)しかありません。損が膨らんだときに途中で撤退する出口(損切り)がないのです。だから含み損を抱えても、「価格が利確ラインまで戻ってきさえすれば勝ち」という形になります。

理論的には、相場が一方向に動き続けない限り、時間をかければ戻ってきます。AUD/NZDのような動きの小さい通貨ペアで、かつ11年間という長い時間軸を使えば、「バスケット積み上げ後に平均建値+20pipsまで戻った回数」は相当多くなります。

逆に言うと、勝率81.6%という数字は、価格が戻らずに含み損のまま決済していない(=まだ勝ち負けが確定していない)トレードを、勝率の計算から除いているということです。戻る前に口座の証拠金が尽きれば強制ロスカット、戻る前にバックテストが終われば未決済のまま残る。この検証では、後者(バックテスト終了時の未決済)が30ポジションありました。

この通貨でだけ生き残った

生存バイアス。AUD/NZDは生き残ったが、USD/JPY・EUR/USD・GBP/USDはいずれもPF1.0未満で損失に終わった

グリッド手法で他の通貨ペアも検証しました。USD/JPY・EUR/USD・GBP/USDなど、複数で試しています。

結果は全敗。プロフィットファクターは軒並み1.0を下回り、損失で終わりました。

AUD/NZDで損切りなしグリッドが「見かけ上成立した」のは、この通貨ペアの値幅が比較的小さく、11年間で大きな一方向トレンドが来なかったからです。別の言い方をすると、「たまたま破綻しなかった通貨ペアを後から選んだ」という結果になっています。

コロナ禍(2020年3月)のような急激な一方向の動きが起きると、30本×5pips=150pipsの逆行でバスケットが上限に達します。そこからさらに逆行が続けば、証拠金不足で強制ロスカットになります。AUD/NZDの11年間でも、一番長いバスケットは7.3ヶ月耐えました。その期間中に資金が尽きていれば、破綻していました。

補足:グリッド手法すべてが危険という話ではありません

今回検証したのは「損切りを入れない・5pips間隔・最大30本」という特定の設定のグリッドです。グリッドという考え方そのものが必ず破綻する、という話ではありません。間隔や上限本数、損切りの有無、そして相場環境しだいで結果は変わります。あくまで「この設定・このルールでは、AUD/NZD以外では生き残れなかった」という一つの検証結果として読んでください。

まとめ:PFの前に「損失の置き場所」を確認する

結論:PFや勝率を見る前に、損失の置き場所(損切りの有無・含み損の隠れ)を確認する

今回の検証から分かったことをまとめます。

この記事のまとめ

  • 損切りなしグリッドのPF2.97・勝率81.6%は「決済済みトレードだけを集計した数字」。含み損は計算に入っていない
  • 損切りありの同じ手法はPF1.009。差は手法の実力ではなく、損失を確定させるかどうかの違い
  • シャープレシオ4.985も同様。月次の含み損変動がPnLに乗らないため、安定しているように見える
  • 最長で7.3ヶ月含み損を保有。含み損ピークは−40万円超。バックテスト終了時点でも−26万円が残存
  • 他の通貨ペアは全敗。AUD/NZDで生き残ったのは、11年間に大きな一方向トレンドが来なかったから

「PFが高い・勝率が高い・シャープレシオが高い」という数字を見たときに、「損失をどこに置いているか」を先に確認する習慣が、こういった手法の本質を見抜く一歩になります。

損切りしない手法でPFが高く出ている場合、その損失は「含み損」として保有中のポジションの中にあります。いつかは清算されます。破綻という形で。あるいは何ヶ月もかけて戻ってくる形で。

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