FX(外国為替証拠金取引)では、さまざまな要因でレートが変動しますが、その中でも特に注目すべきなのが「経済指標」です。
本記事では、日本・米国・英国の指標の中でも重要度が高いものを3種類ピックアップし、発表タイミングや予想を上回る・下回るときの値動きの特徴、そして各指標の意味や過去の具体例を解説します。
指標発表時には相場が急激に動くため、取引のチャンスともリスクともなります。下記の記事も合わせてご確認ください。
日本の重要指標
日銀金融政策決定会合
日銀金融政策決定会合では、日本銀行が金融政策(主に政策金利や量的・質的金融緩和などの方針)を決定します。金利水準の変化や金融緩和の有無は、通貨価値に直結するため、市場は注目します。また、会合終了後に公表される声明文や総裁の記者会見の内容にも注目が集まり、わずかな文言の変化でも大きく相場が動く可能性があります。
発表タイミング
- 年8回程度(事前に日銀公式サイトなどでスケジュール公表)
- 声明は通常、午前中〜正午頃(日本時間)に発表
予測からの上振れ・下振れでどう動く?
※複数の要因で動くものなので、あくまで理論的な考え方として捉えてください。
- タカ派的発言(引き締め寄り):
日銀が金融緩和の縮小や利上げに前向きと受け止められると、円買いが進みやすい。 - ハト派的発言(緩和寄り):
追加緩和策や低金利の長期化が示唆されると、円売りが進みやすい。
過去の具体例
2022年末頃、日銀が「長期金利の変動幅を拡大する」という予想外の決定をした際、市場はこれを事実上の利上げ圧力と捉えて円が急騰しました。
2022年12月20日(火) 正午頃(日本時間)日足
- 内容:
日銀が10年国債金利の誘導目標の許容変動幅を±0.25%から±0.50%へ拡大
(実質的な引き締めの一歩とも受け止められた) - 市場の反応
- サプライズ的な“引き締め方向”と受け止められ、円が急騰。
- ドル円は発表前の137円台から133円台へと大幅に下落(円高)。
GDP(国内総生産)速報値
国内総生産(GDP)は、一定期間内(通常は四半期や年ベース)に国内で生み出された財やサービスの総生産額を示す指標です。経済成長率を把握する代表的な数値で、GDPが上昇すれば経済が拡大していることを意味します。日本の場合、GDP速報値は四半期ごとに公表され、マーケットが最も重視する経済指標のひとつです。
発表タイミング
- 四半期ごと(2月・5月・8月・11月など)
- 平日の午前8時50分ごろ(日本時間)
予測からの上振れ・下振れでどう動く?
※複数の要因で動くものなので、あくまで理論的な考え方として捉えてください。
- 上振れ:
予想よりも成長率が高い場合、日本経済の先行きに楽観的な見方が強まり、円が買われやすい(円高) - 下振れ:
予想よりも成長率が低い場合、日本経済の先行きに不安が生まれ、円が売られやすい(円安)
過去の具体例
2022年11月に公表された2022年7〜9月期のGDP速報値で、予想を下回る結果となり一時的に円に動きがあったケースがありました。市場が「日本の景気回復が遅れている」と判断してリスク回避の動きが強まったためです。
2022年11月15日(火) 8:50頃
- 2022年7〜9月期(Q3)速報値
- 市場予想:年率 +1.1%前後(機関によって差あり)
- 結果(実績):前期比 -0.3%(年率換算 -1.2%)
- 発表直後に「景気回復が予想ほど強くない」という失望感から円が売られる形となり、ドル円で円安方向へ動きが出ました。ただし、直後に「世界景気後退懸念」が強まったために、結局は上下に振れる展開となりました。
消費者物価指数(CPI)
CPI(消費者物価指数)は、消費者が購入する財やサービスの価格変動を測定したもので、インフレ率を測る代表的な指標です。インフレ率の高まりは中央銀行による利上げ(引き締め)期待を高め、逆に下落(デフレ傾向)は金融緩和継続を示唆することが多いため、為替市場では非常に注目されます。
発表タイミング
- 毎月下旬
- 午前8時30分ごろ(日本時間)
予測からの上振れ・下振れでどう動く?
※複数の要因で動くものなので、あくまで理論的な考え方として捉えてください。
- 上振れ:物価上昇率が強い→日銀が引き締め方向に転じる可能性を意識→円買いが強まる。
- 下振れ:物価上昇が弱い→追加緩和の余地があるとみられる→円売りに傾きやすい。
過去の具体例
2023年初頭、日本のCPIが予想よりも高い伸びを示し、一時的に「日銀が利上げに動くのではないか」という観測が高まり円が急伸する場面がありました。しかし、日銀が明確に緩和姿勢を継続すると表明したため、結果的には大きなトレンド転換には至らなかった、ということもあります。
米国の重要指標
非農業部門雇用者数(NFP)
Non-Farm Payrolls(NFP)は「米国雇用統計」として知られ、農業分野を除く全産業の雇用者数の増減を示します。雇用情勢は経済の根幹を示すため、失業率と並んで米国経済を測る重要な数値です。この数値が大きく変動すると、米国の消費や景気全体への影響が予想され、ドルの動きにも直結します。
発表タイミング
- 毎月第1金曜日
- 夏時間は21時30分ごろ、冬時間は22時30分ごろ(日本時間)
予測からの上振れ・下振れでどう動く?
※複数の要因で動くものなので、あくまで理論的な考え方として捉えてください。
- 上振れ:雇用が想定より増加→米国景気が好調とみなされドル買い(円安)。
- 下振れ:雇用が想定より伸びず→景気が鈍化とみなされドル売り(円高)。
過去の具体例
2022年夏頃には、予想を大幅に上回る雇用増加が発表されたことで、「景気がまだ強い」と受け取った市場がドルを買い進み、ドル円が急上昇する場面がありました。
2022年8月5日(金) 21:30(日本時間・夏時間) 7月分NFP
- 予想:+250,000人前後
- 結果:+528,000人
- 市場の反応
- 予想を大幅に上回る雇用増となり、「米国景気が依然として強い」という見方が強まりました。
- ドル円は急上昇(円安)し、一時1円以上の大きな値幅が出る乱高下が発生。
FOMC(連邦公開市場委員会)
FOMCは、米国の金融政策を決定する会合で、政策金利(フェデラル・ファンド金利)の引き上げ・据え置き・引き下げを判断します。会合終了後に発表される声明文や、FRB議長の記者会見での発言は、為替相場を左右する大きなカギです。金利が上昇すれば通貨の魅力が増すためドル買いにつながる傾向があり、その逆もまた然りです。
発表タイミング
- 年8回(2日間にわたり開催)
- 金利発表や声明は日本時間の早朝3時前後(夏時間やスケジュールにより前後)
予測からの上振れ・下振れでどう動く?
※複数の要因で動くものなので、あくまで理論的な考え方として捉えてください。
- タカ派的(利上げ・引き締め示唆):ドル買い → 円安
- ハト派的(利下げ・緩和示唆):ドル売り → 円高
過去の具体例
2022年にFRBが急激な利上げ方針を打ち出したときは、ドルがほぼ一貫して買われ、ドル円は長期的な上昇傾向をたどりました。一方、2023年後半に利上げペースが鈍化するシグナルが出ると、ドル買いが弱まり、一時的に円高方向への動きも見られています。
消費者物価指数(CPI)
米国CPIは、消費者が購入する財やサービスの価格変動を示すインフレ指標です。FRBが金融政策を判断する際、最も重視する指標の一つであり、市場参加者もFOMCの動向を予測するために注目しています。
発表タイミング
- 毎月中旬
- 夏時間は21時30分ごろ、冬時間は22時30分ごろ(日本時間)
予測からの上振れ・下振れでどう動く?
※複数の要因で動くものなので、あくまで理論的な考え方として捉えてください。
- 上振れ:インフレ圧力が強い→FRBの利上げ継続観測→ドル買い(円安)。
- 下振れ:インフレ鈍化→利上げペースの減速または利下げ観測→ドル売り(円高)。
過去の具体例
2022年中頃からインフレが急加速した際、CPIの数値が市場予想を上回るたびに「さらに大幅利上げが必要」と見られ、ドルが上昇する場面が続きました。2023年になると、一部でインフレのピークアウトが意識され、CPIが下振れするたびに「利上げ終了が近い」との思惑でドルが売られる展開もありました。
CPIなどの指標を元にFOMCの利上げ/利下げ判断につながるので、FOMCよりも前にこの結果を受けて大きく動く傾向があります。
イギリスの重要指標
GDP(国内総生産)速報値
イギリスのGDP速報値は英国経済のパフォーマンスを端的に示す指標です。EU離脱(Brexit)後の英国経済の先行きを占う意味でも、投資家が注目する重要指標となっています。
発表タイミング
- 四半期ごと(1月・4月・7月・10月など)
- 日本時間では午後(だいたい17時〜18時頃)
予測からの上振れ・下振れでどう動く?
※複数の要因で動くものなので、あくまで理論的な考え方として捉えてください。
- 上振れ:英国経済が好調→ポンド買い(円安)。
- 下振れ:英国経済が停滞→ポンド売り(円高)。
過去の具体例
2022年にBrexitによる影響を懸念して、市場は英国の景気動向を注視していました。たとえば、2022年10月に発表されたGDP速報値が予想よりも低く、ポンドが急落する場面がありましたが、翌月の改定値でわずかに上方修正されたことでポンドが持ち直すなど、振れ幅が大きかったのが特徴です。
BOE(イングランド銀行)政策金利発表
イングランド銀行(BoE)の金融政策委員会で決定される政策金利は、ポンドの金利水準を決める重要イベントです。物価や景気を睨みながら、利上げ・据え置き・利下げを判断します。特に欧州・世界経済全体の不確実性が高まると、市場はBoEの方針を細かく分析し、ポンドが急変動するケースがあります。
発表タイミング
- 年8回
- 木曜日の午後(日本時間20時〜21時頃)
予測からの上振れ・下振れでどう動く?
※複数の要因で動くものなので、あくまで理論的な考え方として捉えてください。
- 利上げ・タカ派的声明:ポンド買い(円安)に動きやすい。
- 据え置きや利下げ・ハト派的声明:ポンド売り(円高)に動きやすい。
過去の具体例
2022年にインフレが高止まりする中、BoEが積極的な利上げを続けたことで、一時的にポンドが対円で急上昇したケースがあります。しかし、英国景気の先行き不安などから、上昇後すぐに反転することもあり、指標後の値動きが乱高下する傾向が見られました。
消費者物価指数(CPI)
英国のCPIは、イギリス国内におけるインフレ動向を示す主要指標であり、BOEの金融政策とも密接にリンクしています。特に近年はエネルギー価格の変動やBrexitによる輸入コスト増などがCPIにどの程度反映されるかが注目され、指標発表のたびにポンド相場が揺れ動くことも少なくありません。
発表タイミング
- 毎月中旬
- 水曜日の昼前後(日本時間17時〜18時頃)
予測からの上振れ・下振れでどう動く?
※複数の要因で動くものなので、あくまで理論的な考え方として捉えてください。
- 上振れ:インフレ加速→BOEの追加利上げ観測→ポンド買い(円安)。
- 下振れ:インフレ鈍化→追加利上げが遠のく→ポンド売り(円高)。
過去の具体例
2022年後半から英国のCPIが10%を超える高水準を記録し、これは約40年ぶりの高水準でした。この時期にBOEは複数回の利上げを実施し、ポンドが上昇する場面が見られましたが、同時に景気後退懸念も高まり、相場のボラティリティ(変動幅)が大きくなったのが特徴です。
重要指標カレンダー
各証券会社のサイトにて公表されておりますので、参考にしてみて下さい。
過去のチャートで確認する方法
過去の重要経済指標の値動きを確認したい場合は、フォレックステスターというツールがおすすめです。1分足単位でどのように動いたかを詳細に確認できるので、実践的な分析に役立ちます。使い方については、以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
1分足で大きく動いた例
まとめ
日本・米国・英国の重要指標は、FX相場に大きな影響を与える主要イベントです。指標の数値が予想を上回るか下回るかによって、対円での各通貨の方向性が大きく動くため、それぞれの内容と発表タイミングをしっかり把握しておく必要があります。
とくに発表直後は値動きが激しく、スプレッドが広がったり注文が通りづらくなる可能性があります。指標前後のエントリーや決済では、リスク管理を徹底しましょう。また、過去の具体例を学ぶことで「どのような結果が出たときに相場がどう動きやすいのか」をイメージしやすくなります。
指標は毎月や四半期ごとなど定期的に公表されるので、必ず「経済指標カレンダー」を確認し、事前にトレード戦略を練ることが大切です。ぜひ今回紹介した指標の発表日や傾向を押さえて、FXトレードに活かしてください。